頚椎椎間板ヘルニアとは
頚椎腰椎椎間板ヘルニアは、腰椎椎間板ヘルニアと同じ病態を持ちながらも、症状と治療の難易度は大きく異なります。
頚部は脊髄を収容している骨である頚椎からなります。頚椎は総数7つあり、第一頚椎、第二頚椎と順番に名付けられています。各頚椎の間には椎間板と呼ばれる組織が存在します。この椎間板は上下の頚椎を結びつけ、一定の柔軟性を備えています。
しかし、この椎間板の組織が崩れ、脊髄や神経根が急激に圧迫されることがあります。これが頚椎椎間板ヘルニアと呼ばれる状態です。頚椎椎間板ヘルニアは脊髄や神経根に直接的な影響を及ぼすため、腰椎椎間板ヘルニアと比較して症状や治療の難易度が著しく異なるのです。
頚椎椎間板ヘルニアの症状
腰椎椎間板ヘルニアとの主な違いは、脊髄の圧迫部位が異なるため、症状が現れる身体の部位も異なります。また、特に重要な障害の一つは手の動きに影響を与えることです。
大まかに二つのタイプがあります。
特定の肩や手の領域に激しい痛みや放散痛が生じるタイプ
この場合、「しびれ」も起こることがあります。最初の数日間は、首の捻挫と似たような後頸部の鈍痛や不快感があります。それに続いて、手や肩に激しい放散痛が生じることが一般的です。この痛みは非常に強いものですが、2-3週間程度でピークを過ぎ、その後は鈍い痛みやしびれが残ります。通常、数週間から数ヶ月で軽快する傾向があります。
しびれから運動障害や下肢の障害まで進行するタイプ
このタイプでは、両手の「しびれ」が見られたり、細かい動作(箸を使う、ボタンをかける、ページをめくるなどの巧緻運動)が徐々に困難になったり、両足の先から徐々にしびれが広がったり、歩行が不自由に感じられたりする症状が数日から数週間で急速に進行します。
初期段階の症状
首や肩などの違和感や鈍い痛みを生じやすいです。ただし、休んでいれば症状が落ち着きやすい傾向があります。1週間から8週間程度経過すると、症状が改善されるため、医師の指示に従って過ごしましょう。
中期段階の症状
鈍い痛みを生じて、徐々に自覚できるくらいの痛みやしびれに変化していきます。初期の頃にできていたことができなくなることも多いです。治療は、長期間安静に過ごしたり、痛み止めを服用したり、リハビリテーション療法を行います。治療に必要とする期間や治療を終えるタイミングは、個人によって異なりますが、1週間から8週間を目安にしましょう。
後期段階の症状
しびれや痛みの度合いが強くなることが多いです。首を動かすことさえ難しくなった場合は、手術を検討していきます。手術を含めた入院期間は、2週間を目安にしましょう。入院中は、薬物療法とリハビリテーション療法をあわせて行うことが多いです。手術の後の治療は、経過観察が中心となるため、継続して通院をしましょう。治療にかかる期間は、数ヶ月から1年を目安にしておきましょう。
頚椎椎間板ヘルニアの原因
スマートフォンやパソコンなどの過度な使用により、首が前に突き出るクレーンネックが発症する可能性があると考えられています。クレーンネックは頚椎症の発症リスクを高めるため、注意が必要です。近年、頚椎症の患者数は増加傾向にあります。また、加齢とともに椎間板の機能が低下し、椎間板の突出が発症に関与すると考えられています。椎間板は組織の中で老化が早いと言われており、常に圧力がかかるため、加齢により外側の膜が破れ、髄核が突出して神経を圧迫しやすくなります。
頚椎椎間板ヘルニアの診断方法・検査方法
レントゲン検査やCT検査、MRI検査、脊髄造影検査などを行います。MRI検査により、腰椎椎間板ヘルニアの確定診断を行うことができます。レントゲン検査よりもMRI検査のほうが、椎間板の状態を詳しく撮影することができます。当院では、MRI検査を行っていますので、お気軽にご相談ください。
頚椎椎間板ヘルニアの治療方法
両側の手足に症状が出現していたり、筋肉の萎縮や麻痺を生じている場合は、症状が進行しやすいといわれています。放置すると深刻な状態を引き起こす可能性があるため、症状が悪化する前に手術を検討していきます。ただし、片側の上半身に放散痛を生じている際は、長時間休んだり、保存的療法により症状が改善される傾向にあります。
保存的療法
保存的療法には、頚椎牽引療法や頚部のマッサージ、頚部カラー固定などがあります。上半身の放散痛を生じているときに保存的療法を行いますが、患者様の中には、症状が悪化する方もいます。また、頚椎カラー固定は、長期間装具をつけていただく必要があり、頚部の筋肉が萎縮したり、痛みを生じることがあります。当院では、患者様の状態を確認しながら、適切な治療を行っています。数日間、装具をつけていただいて、問題がなければ4週間~8週間程度様子を見ていきます。なお、痛みを生じている際には、鎮痛剤や筋弛緩薬などを処方いたします。細かな手の動作に支障が出ていたり、しびれを生じている際には、ビタミンBを用いていきます。
神経ブロック
星状神経節ブロック
痛みを落ち着かせるためには、交感神経の緊張を抑えることが大切です。星状神経節ブロックを注入することで、血液循環が良くなり痛みが軽減されやすいです。局所麻酔薬は、首にある交感神経が密集している箇所に入れていきます。
腕神経叢ブロック
レントゲン検査の画像を確認しながら、局所麻酔薬を首や肩、腕などにつながっている神経が密集している箇所に入れていきます。入れる場所としては、鎖骨の少し上辺りに入れることが多く、細い針を用いるため、痛みが生じにくいのが特徴です。
神経根ブロック(ルートブロック)
神経ブロックは、神経症状が出現しているときに用いられます。局所麻酔薬は、レントゲン検査の画像を確認しながら、痛みを生じている箇所に入れていきます。頚椎椎間板ヘルニアを発症すると、神経根が圧迫されることで痛みを生じやすいといわれています。治療は、神経ブロックを注入して、神経の炎症を抑えることで、症状の改善を期待できます。ただし、圧迫されている箇所が脊髄であれば、手術を検討していきます。腰椎ヘルニアと比較すると、頚椎椎間板ヘルニアのほうが、重い荷物を持ったときの身体への負担が少ないといわれています。治療開始から完治するまでの期間は、3ヶ月を目安にしましょう。
手術療法
手術により、頸椎の固定と脊髄の圧迫を取り除ける可能性があります。手術の方法は、頚椎前方到達法を用いられることが多いです。体内に全身麻酔薬を入れて、仰向けの体勢で手術を行います。皮膚を切り開く箇所は、一般的には頚部の右側とされていますが、患者様の状態によっては、頚部の左側を切り開くことがあります。食道と気管を真ん中にたぐり寄せて、頚椎の前方に届かせます。頚椎を部分的に削った後は、脊髄の圧迫を取り除いていきます。その後、頚椎のスペースにスペーサーと呼ばれる人工骨、もしくは患者様の骨を入れていきます。排液用の管の創部ドレナージを用いるまでが、手術における一連の流れになります。
手術の方法は、患者様の状態に合わせて検討していきます。