変形性股関節症

変形性股関節症とは

股関節に存在する軟骨が破壊されたり、軟骨と骨が変形している状態です。英語表記では、Osteoarthritisから「OA」とも呼ばれています。悪化すると関節が変形したり、慢性的な関節炎や運動のときに痛みやすい、動ける範囲が制限されてしまいます。歩いたり、体を動かすときに支障が出ることもあります。原因としては、関節にダメージを受けてしまうことが関係していると考えられています。関節リウマチも関節の痛みを生じますが、変形性股関節症とは異なるものです。

変形性股関節症の患者数

レントゲン検査で診断された変形性股関節症の罹患率は、1.0~4.3%程度と報告されています。日本の総人口のうち、120万~510万人程度がかかっていて、男性よりも女性に発症しやすい傾向があります。また、9割程度の方が、先天性臼蓋形成不全や先天性股関節脱臼をお持ちで、時間経過とともに発症されている傾向があります。近年、先天性股関節脱臼の発症者数が減っているといわれていますが、これまでは、幼児のときのおむつの巻き方が発症に関係していると考えられていました。

変形性股関節症の仕組み

腱や靱帯、筋肉が分散していることで、関節に直接ダメージを与えずに済んでいます。発症すると腱や靱帯、筋肉の分散がコントロールできなくなるといわれています。原因としては、遺伝的要因や加齢、体重増加、ケガ、関節運動、関節不安定症、亜脱臼や脱臼を繰り返すことが考えられています。また、軟骨は、クッション機能を果たしていますが、軟骨にダメージを受けることで軟骨が変形したり、すり減ったり、骨と骨がこすれて変形するようになります。先天性臼蓋形成不全や先天性股関節脱臼を生じると、股関節が変形する可能性があるため、注意しておきましょう。

下記では、変形性股関節症を発症する仕組みと症状についてご説明させていただきます。

  1. 生まれたときから股関節が変形していたり、加齢とともに軟骨の表面がすり減ってしまい、軟骨がつくられている成分が変化することで発症すると考えられています。この段階では、症状が出現することはありません。
  2. 徐々に軟骨がすり減り、骨同士の空間が減っていきます。また、関節に負担がかかるため、関節炎を生じることがあります。症状は、股関節の付け根や大転子周辺に痛みを生じやすいです。
  3. 軟骨には水分を保つ機能がありますが、発症すると機能低下を起こしやすいです。徐々に、軟骨の弾力がなくなる可能性があります。あぐらをかくことや股を開くことが難しくなったり、靴下を履いたり、足の爪を切ることができなくなります。
  4. 軟骨のすり減りが進行すると、軟骨の下にある骨が見えてきます。骨と骨がこすれあったり、骨が押しつぶされるため、激しい痛みを生じやすいです。さらに進行すると、骨が硬くなっていきます。
  5. 骨と骨がこすれあうと、骨自体に変形がみられて関節が不安定になります。トゲのように飛び出た骨のことを、骨きょくと呼ばれています。安静にしているときや睡眠中であっても、激しい痛みを生じやすいです。また、歩くときに足を引きずったり、体が左右に揺れることがあります。
  6. 股関節が硬くなるため、体を動かせる範囲が制限されてしまいます。また、骨と骨が合わさった状態で固まってしまうと、股関節を動かしにくくなります。

変形性股関節症の診断方法

レントゲン検査で骨の形や骨と骨の空間の開き具合いを確認して、診断を行います。レントゲン検査は、軟骨の状態を確認することができませんが、MRI検査では軟骨や滑膜、靭帯の状態を調べることができます。関節リウマチの疑いがある場合は、関節液検査や血液検査を行います。

変形性股関節症の治療方法

運動療法は、温水プールで歩かれることを推奨しています。炎症と痛みに配慮しながら、太ももや股関節付近の筋肉を強くすることを目指します。症状の進行を抑えたり、痛みの軽減、股関節疾患の予防や手術された後の回復にも有効といわれています。病院のリハビリテーション科に通院して、運動療法を行っていただけます。装具療法は、腰や太ももにSスプリントといわれる装具を取りつけていきます。股関節を安定させる効果を期待できます。温熱療法では、15分〜20分程度温めたパックで関節を温めて、血液循環を促すことで、痛みが軽減する可能性があります。薬物療法では、消炎鎮痛薬や軟膏、湿布などを用いることで、関節の炎症を抑える効果を期待できます。

当院の手術

骨切り術・棚形成術

骨切り術・棚形成術は、患者様の骨を残して、股関節の痛みを軽減する効果を期待できます。骨を部分的に取り除いたり、骨を削って形を整えていきます。関節のつくりを変えられるため、股関節のソケット箇所の寛骨臼と、股関節のボール箇所の大腿骨頭を正しい位置に戻すことができます。いくつかの術式があるため、患者様の状態に合わせて適切なものをご提案させていただきます。骨盤側の手術方法は、患者様の骨を移植して、臼蓋の屋根の箇所をつくる棚形成術、臼蓋の上で骨盤を水平に取り除いて横方向にずらしていくキアリー骨盤骨切り術、寛骨を部分的に取り除いて回転させる寛骨臼回転骨切り術があります。一方、大もも骨側の手術方法は、内反骨切り術と外反骨切り術があります。

人工股関節置換術(THA)・THR;total hip arthroplasty (replacement)

痛みの原因になる箇所を取り除いて、変形した関節の部分に人工関節を置き換える方法です。ある程度、進行していても症状が改善される可能性があります。日常生活を送るだけで、歩くときに股関節にかかる負担は体重の3倍程度、床から立ち上がるときは体重の10倍程度、イスから立ち上がるときは6~7倍程度かかるといわれています。常に、股関節に負担がかかっている状態であるため、激しい運動や立ちっぱなしの仕事を避けたり、イスや洋式トイレ、ベッド、杖を用いられることを推奨しています。できるだけ股関節に負担をかけないように心がけることで、変形性股関節症の進行を防ぐことができます。

人工股関節置換術が必要になる場合

軽度の場合は、患者様の身体への負担が少ない治療法を第一に考えていきます。そのため、薬物療法や運動療法を用いることが多いです。ある程度、症状が進行していて、薬物療法や運動療法を行っても効果を得られずに、日常生活に支障が出ている場合は、人工股関節置換術が必要です。手術によって痛みが軽減される可能性があります。人工股関節置換術を受けられる目安は、下記の項目を参考にしましょう。

  • 頻繁に関節を使用したときに痛みを生じやすい
  • 歩けない、動きにくい
  • 一定の時間、体を動かさないでいると関節が固くなってしまう
  • 関節を曲げられる角度が小さくなった気がする、関節を動かしにくい
  • 関節が腫れている、関節が固くなっている
  • 関節がきしむ
  • 湿っぽい天候のときに痛みが増す
  • 朝方に関節がこわばるが、徐々に落ち着く
  • 運動している最中や運動した後に関節が痛くなる
  • 階段の上り下りができない、歩けない
  • 湯船に入る、湯船から出る、イスに座る、イスから立ち上がるなどの動作ができない
  • 痛みを生じていることで熟睡できない
  • 杖を用いたり、薬物療法では痛みが改善されない
  • 痛みが続いている、もしくは再発する
  • これまでに関節のケガをしたことがある

上記の症状に当てはまる場合は、股関節の手術を受けたほうが良いのか相談しましょう。その際に、手術の予定日や手術方法について確認されることを推奨しています。すべての患者様に、人工股関節置換術を行えるわけではありません。患者様の骨量が少なかったり、感染症にかかっていたり、骨の強度が弱くて人工股関節を入れられないと判断した場合は、他の治療を検討していきます。